よってたかって恋ですか?


     6



秋の夜長という過ごしやすい中へ出掛けて、
穹を翔ける望月が その姿を地球の落とす陰に隠される
皆既月食なる 天体ショーを観測し…ていたかどうかは、
微妙に ややもすれば不明ながら。(苦笑)
お互いに大好きな、素敵な伴侶様の温みを傍らに、
それはそれは雰囲気のある宵をしみじみと堪能し。
遅くなったが銭湯へ寄り、
ほこほこと温まってアパートへ帰った最聖のお二人で。

 “……。”

世間様では何ですか、
次の、しかももっと勢力の大きな台風が接近しつつあるとかで。
警戒してください、早めに備えをしてくださいというアナウンスが
テレビやネットなどなど、あちこちから聞こえているものの。
今のところは、それこそ これが嵐の前の静けさか、
晴れ間さえ見えているらしく、窓の外も白々と明るみ出しているほどの
それは静かな爽やかさが、室内にあっても感じられ。

 “……えっとぉ。”

陽が落ちてからのお出掛けというのは、
何とはなし、昼間のそれとは別な色合いのワクワクを運んで来るようで。
まだまだ小さくて何でも親がかりな 幼い子供でもないのにね。
ああ でも、私たちって
遅い時間に出掛けるなんて
それこそ そんな時間だからこそというお題目ででもない限り
あんまりなかったりするよなぁ。
となれば、幼い子供らと変わらないのかなぁ…などと。
起きぬけの頭で、他愛ないままことを他愛ないまま
ごしょごしょ思っていたイエスだったのは。
自分の懐ろ、胸元や腕の中が
ふんわりとした温かいもので占領されていたのへ
意識の半分を持ってかれてたからでもあって。
まだそうまで陽の出るのが遅いということもなかろうから、
明るいからというだけで遅い時間とは言えないのかも。
でもでも、自分が自然に目が覚めたほどだというに、
そんな刻限になっても ブッダがまだ起きていないというのは珍しいこと。

 “今朝はジョギングはお休みなのかなぁ。”

窓をきっちりと閉めてはなかったか、
ちょっぴり涼しい朝の空気の ひたひたとたゆとう中では、
触れ合ってる温みが何ともまろやかで心地よく。
ああ 恋人と迎える朝って こうなんだというの、
堪能出来るよになったのも、ここ最近のことだよねと、
ついつい緩んでしまっておいで。

  これもまた、
  特別な夜を過ごすようになって以降の変化の1つで

思ったより何やかやと疲れてしまうものなのだろか、
ブッダが ついつい寝過ごす朝が増えたよな気がする。
少なくとも今のところは毎回、
イエスが空になった懐ろに“あ〜あ”と消沈することはない
幸せな朝を迎えており。
今朝もその伝だろうかと きゅんきゅんしつつ、
合い布団の下、懐ろの中に大人しく収まっておいでの愛しの君を、
まずは肌と肌とが触れ合う感触で堪能しておいで。

 “柔らかいなぁvv それにさらさらと温かいしvv”

何にも代え難いほど 大好きで大切な人。
しっかり者で頼もしくって、でもでも、
不慣れな恋心にまつわることとなると、
朴訥初心なままに おぶおぶと狼狽えるばかりの
そりゃあ可愛らしくなってしまう人。
そんな彼の無防備な寝顔や寝姿、
ゆっくりと眺めたり堪能することも出来るのが、
こそりと嬉しいイエスだったりし。

 “思わぬおまけだよねぇvv”

新たに進み出た一歩だけでも 甘くて幸せでしょうがない睦み。
しかも、それへはこういう“おまけ”が付いて来るのが、
寝ぼすけイエスには じんわりと嬉しくてたまらない。
自分と違って隙がないというか、
余程のことでもない限りは、襟を正しの、しゃんと胸を張りのと、
廉直にして公明正大、
バカンス中でも怠けるなんてとんでもないないが基本のブッダであり。
確かに開祖たる者が“怠ける”ことを奨励しちゃあいけないが、
それでは息抜きにならないんじゃないかと案じもし、
もしかして弟分の自分が一緒だからこそ気を張ってしまうのかなと、
これでも ややもすると憂いてもいただけに。
うんうん、いい傾向じゃないvvと、
ここぞとばかり ほくほくと喜んでさえいたイエスだったが、

 “でも、あれれ? 昨夜は確か…。”

目覚めつつあるからだろう、
少しずつ思い出しつつある何かがあって、
それが頭の隅っこに 微かな違和感という陰を落とし始めてる。

 “う〜んと?”

まま大したことじゃなかろうと、とりあえず優先順位を引き下げて、
それよりもと、目の前の眼福に意識を引き戻す。
こちらの肩の付け根あたりに頭を置いていて、
間近になり過ぎのお顔の向こう、
瑞々しく柔らかで、それはすべらかな肌が
シャツの襟ぐりから覗くうなじを見下ろし。
それへと何本か掛かっているさらさらな髪を、
くすぐったいんじゃないかなぁと
注意深く指先で退けてあげようとしかかったイエスだったが、

 “………………ちょっと待てよ。”

先程 感覚の上を掠めた違和感に、別の“??”が加算される。
深色の髪も、甘い温みをおびた乳白色の柔らかな肌も、
確かに愛しの伴侶様の持ち物だったが、
それらをくるむ、パジャマ代わりのシャツが
えらいこと遊びまくっていないかという違和感を、
まずはと感じて手が止まる。
とっても律義で頑張り屋さんなブッダであるお陰様、
果てた後の コトの順番の関係で、(苦笑)
二人ともが疲れたそのままあえなく寝オチ…という運びは、
今のところは一度もない。
じゃあおやすみとちゃんと囁き合って寝入っている彼らなので、
途中で脱ぎ散らかしたシャツも着直しているのがセオリー。
なので、お互いがきっちり着ていることには矛盾もないのだが、
ブッダの側だけ、いやに ぶかぶかし過ぎていて、
襟ぐりなぞ うなじどころか肩の先の丸みまで覗く勢いになっており。

 「…ぶっだ?」

そうまでサイズが合わないシャツなんて持っていたかしら。
本人が気にするのでそういう話題はあんまり持ち出さないが、
ほんの稀に…彼自身がちょこっとだけふくよかになっていてのこと
小さいのでは?というケースには覚えもあったれど。(苦笑)
それだと大きいんじゃないかというものは、
天上界という、宙に浮くこと前提の状況でもない限り、
まとっているところを見たことがない。

 “私が引っ張り過ぎたとか?”

そういう気分が盛り上がり、
組み敷いてしまった彼の、絹のような肌に早く触れたくてと、
急くようにシャツを剥ぎ取ることが結構あって。
さりげなく身を浮かしたり 腕を袖から抜いたりと、
ブッダ自身も協力してくれているとはいえ、
随分と強引な脱がせ方をしていてのこと
とうとう こうまで伸びてしまったのかなぁと。
妙に所帯臭い案じようをしておれば、

 「……ん。」

さすがにもう寝足りたものか、
まずは もぞりという身じろぎを見せ、
その次に う〜んとしなやかに、
背条や首条といったあちこちを伸ばして見せる。
伸ばすと言っても、本当に目一杯伸ばせる空間でなし、
寝起き一番の深呼吸の間合い分だけ 胸郭を張るやら、
上半身だけ くうぅ〜っと背伸びをするやら。
いつもと同じ“おはようの伸び伸び”をしてから、
それらをすとんと緩めて一気に弛緩し、
準備完了、起動スタンバイ。

 “…パソコンですか。”

茶々を入れた場外へ ツッコミを入れられるほどに、
意識も鮮明に目が覚めたらしいブッダ様。
自分が身を寄せたままでいる存在へも、勿論 意識は向いていて。
ああ、見慣れた胸板が今日も頼もしいなぁ、
あれ? でも、寝息が聞こえないし、
そんなリズムでお胸も上下してはないようだから、
もしかして もう起きてるのかな?と。
彼は彼で、そんなこんなと思いつつ、
伏せてたお顔、小さく寝返りを打つよな感覚で晒しつつ、
どうやらこちらを覗き込んでたらしいイエスへ向けて、
にっこり微笑んで見せる。

 「おはよう、イエスvv」

そのまま床へ手をつきつつ身を起こせば、
シャツ越しながらも 肩に背中にと軽やかに流れ落ちる髪の感触があって。
それがどういうことなのかは、
ブッダの側でも すぐにも察しがついてのこと、
あやや、また螺髪が解けたんだな、恥ずかしいなぁ、
でも、まだちょっと間は しょうがないよねvv という
ふんわかした含羞みに襲われる。
官能を刺激されての昇り詰めてゆく喜悦を、
快楽として堪能するなんて まだまだとんでもない話で。
何が何だかと翻弄されるばかりで精一杯。
そんな自分を、どこにも流されてゆかぬよう、
怖くはないよと しっかと抱きすくめてくれるイエスが、
ますますのこと頼もしく思えてやまず。
ここまで甘えていいなんて、
それこそ王子として過ごした子供時代にも
なかったんじゃなかろうか。

 “それはさすがに言い過ぎかなぁ。////////”

そんなこんなを隠し切れないままの甘い甘い笑み、
口許や頬へ滲ませながら。
愛しい人が、やはり身を起こしたのへと向かい合い、
あらためての親愛込めて にっこり微笑って…見せたのだけれども。

 「…………? あれ?」

此処に至って、何か変だとこちらも感じた。
何げに上げた視線が、だがまだ相手のお顔へ届いておらず、
あれれ、なんで?と思いつつも、自分の顔をもちょっと上げれば、
やっとのこと
同じように床の上へ座っている彼と向かい合う格好になれたものの、

 「…イエス?」

そのイエスが何とも微妙な表情をしている。
普段の彼なら
すぐさま屈託ない笑顔でのおはようを返してくれようものが、
表情が途中停止状態になっていて、
ぎりぎりで表すならば 驚きに固まりかけているというところか。
しかも視線はこちらに向いてる。
何か、そう…起きぬけに届いたメールに動じているとか、
でもでも それをブッダには隠したいとかいうならば、

 “視線は もっとあらぬ方向へ逸れているだろうから、”

だから違うと断じてしまえる把握も大したもので。(笑)
自分の寝坊を案じてくれたのかなぁ、
だったら心配は、あのその要らないよと、
声を掛けつつ、手を延べようとしたのだが、

 “…………………え?”

自身の視野の中に入ったものが、まずは信じられなくて。
まじまじとそれを見やり、
次に、向かい合うイエスの顔を も一度見直す。
ああそうかそれで、そんな微妙なお顔をしてたのかと、
そちらへも納得するのと並行で、
思わずだろう、息を吸い込みながら
喉の奥で小さく悲鳴を上げかけた釈迦牟尼様なのへ、

 「あ、しっかりして、ブッダっ!」

身を震わせるほど慌てふためく様子を素早く見越し、
落ち着いてと宥めるため、
こちらからも身を乗り出したイエスだったけれど。

 「……あの、私のことは判るのかな?」

正座していたお膝の脇へ辛うじて手をついて、
そうしていないと今にも頽れ落ちそうになっているブッダへ、
案じながらも そんな言いようをしたのも、
そも、驚き混じりの微妙な顔を向けていたのもそのため。

 「もしかして キミ、
  シッダールタ、なんじゃあないのかな?」

小さくて幼い手をした、まだまだ年端もゆかぬ年頃の。
よって、目覚めた人としての特典あれこれを身につけぬ、
螺髪じゃなかったのもそのためならば、肉髷もない、
愛子ちゃんくらいだろう、シッダールタ王子の姿となっていた、
ブッダ様だったものだから。
イエスも、そしてブッダ本人も、
声も出ぬほど驚愕してしまった朝だったのでありました。



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  *これもまた二次には定番のネタで、
   今更という感もありましょうが、
   書いてみたくなったので、ちょっとの間お付き合いのほどをvv

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